抄録
余等の使用せる枸櫞酸ソーダ0.5%を加へたる豚コレラ毒血に就てバークシヤー1回雜種の體重24-36kgのものを試豚とし.夏季に於て之が感染量を驗したるに次の結果を得たり。
1 皮下注射に於て毒血0.0005c.c,腹腔内注射に於て0.0001c.c,脈管内注射に於て0.0001c.cを最少感染量と認めんとす即ち皮下注射にありては1萬分ノ5c.c,腹腔内及脈管内注射に於ては1萬分ノ1ccの毒血を以て感染せしむるに足る。
2.毒血量0.5-1.0ccの皮下注射によりては潜伏期4-6日のもの74%,10日以内のもの94%にして14日に至るもの稀なり然るに同系統の病毒中.潜伏期25日に突然延長し尚其の感染發病を認めたる場合ありたり。
3.接種毒血量の異りたるものゝ發病4-5日に於ては臨床上徴候同一なりと雖ども.解剖的變状は或る程度迄使用毒血量と略正比し.量の多きに從ひて病變著明なるの傾向を認む。
1.毒血を豚に腹腔内注射すれば何等の危險を見ず.而かも從來の皮下注射法に比較して著しき短日數を以て所求の免疫進行を望み得。
2.本免疫血清1.0c.cは余等の認めたる最少毒血量に對し6,600倍の割合に防禦し得たり。
3.發病當初にありては本血清30.0c.cを以て治效を認めたり一定の潜伏期中にありては20.0c.cにて.之が發病防止を見たり。
4.血清被注射豚の感染防禦は.4週日に到り著しく減退すと雖も尚感染量の百倍に耐へたり。
1.病毒と免疫血清を以て爲せる被注射豚の自然感染に對する抵抗期間は最短42日,最長70日,平均60日なりき。
2.右期間にして感染したる半數は斃死し他の半數は治癒したり。
3.共同注射豚は反應を認めざる場合にも.病毒を排泄し同居感染を爲せり。
4.共同注射豚より採尿して之が接種を行ふに結果は陽性なり。
5.依是見之.共同注射法に依る豚コレラ豫防方法は。豫防期間比較的短きと病毒排泄の危險ありて實用的價値乏しきものの如し。
本試驗5頭に於て6ケ月間效力を認めたるは80% 無效20%にして.個體其他に依り之以内に止るものもあるべし。實際上本ワクチンは前項共同注射法に比し豫防期間著しく長くして良好なる結果を得たり。