抄録
著者らは,さきに,肝・腎障害および貧血を主徴とする犬の諸種疾患に低血清透析性 Ca 状態の傾向を認め, 生体防衛反応における低血清透析性 Ca 状態の意義を究明する目的から, 実験的肝障害時のその状態について検索を試みて報告した. 今回, 低血清透析性 Ca 状態において, 生体が生命保全のために示す生体防衛反応の意義を, 貧血症について, 臨床的および実験的に検索した. その結果は, つぎのとおりである. 1) 犬鉤虫症の臨床例における血清透析性 Ca および血清総 Ca 値は, 健康値に比較して, 著名な低下を示した. 2) 犬鉤虫子虫の人工感染を試みたところ, 鉤虫保有成犬に感染(重感染)した場合, 血液所見と同じく, 血清透析性 Ca および血清総 Ca にも認め得べき動態は観察されなかった. 幼犬が感染(初感染)した場合には, 血清透析性 Ca および血清総 Ca は感染後急激に低下し, その後は漸増する傾向を示したが, これは貧血の発現過程とほとんど平行していた. 3) 多量の一回瀉血と, 少量の長期連続瀉血を行なった犬および家兎では, いずれの場合も血清透析性 Ca および総 Ca の変動は, 貧血の過程とほとんど同じ傾向を表わした. 4) 一方, 強度の貧血を呈し, 死の転帰を取った鉤虫子虫人工感染幼犬および瀉血家兎では, すべて血清透析性 Ca および総 Ca は, 著名かつ急激な低下を示した. 以上の結果から実験的鉤虫感染および瀉血時においては, 貧血の憎悪にともなって, 血清透析性 Ca および血清総 Ca の低下を認めた. したがって低血清透析性 Ca 状態と貧血は, 感染防禦力の立場において, 密接な関係を有するものと推察された.