抄録
精液貯溜腫を認めた雄鶏17例及び健康鶏のほか本病以外の鶏病例を含む28例を主として病理組織学的に検索して以下の結果を得た. 臨床的に本症の発見は困難で, 肉眼剖検上も, 病変の指摘は困難であった. 指摘できる場合, 精巣上体のみに白色, 砂粒状, 大小不同の点状ないし粟粒大の微小硬固塊状物を容れた膨隆を認めた. 病理組織学的に最も本症を特微づける病変は, 精巣輸出管における精子凝集塊の存在である. この精子凝集塊は, 精細管内で造られ, 精巣網を経て輸出管に集積し, ここに石灰化にまで至る各種病変が認められた. 精巣及び精巣上体間質には非炎症性の変化がみられた. しかし, 精巣上体管, 精管には殆んど変化がみられなかった. 本症は雄鶏に37.8%という高率に発生し, 180日齢以降の雄鶏にのみ見られ, しかも加齢と共に病変の程度が重くなり, 他の特定の疾病に随伴して発生することはなく, 品種との関係もみられなかった. 原因論について ,以上の結果から本症を老化の一事象と考える. また病名には, 精液貯溜腫(Spermatocele)が適当と考える.