新しく開発された微小電極, PO2センサー(M-HOS, PO-2080: 三菱レイヨン社)による動脈血中の酸素分圧測定値について, 従来からの血液ガスアナライザーによる動脈血液中の酸素分圧測定値と比較検討した. その結果, 回帰直線はY=1.4×-4.9 (r=0.993)であり, 両者間では極めて相関性が高く, PO2センサーによる酸素分圧の測定値は, 血液ガスアナライザーの測定値に匹敵することが確認された. PO2センサーを使用して心筋組織内の酸素分圧を測定した. 測定部位は左冠状動脈前下行枝の支配領域で3力所を選び, PO2センサーの先端を左心室心内膜下, 左心室心外膜下ならびに心室壁中間点に位置するように刺入して当該部位における心筋組織内の酸素分圧を測定した. その結果, 左室腔内動脈血中の酸素分圧を100% (平均411.5±68.3mmHg)とした場合, 心内膜下の心筋組織では約70%, 心室壁中間点の心筋組織では15%, 心外膜下の心筋組織では約9%であり, 心内膜側から心外膜側に向って酸素分圧の勾配がみられることが確認された. 冠状動脈前下行枝の血行を遮断または解除して心筋組織に供給される酸素供給経路を確認した結果, 心室壁中間点ならびに心外膜下の心筋組織では, 前下行枝の血行遮断によって顕著な低酸素状態を呈し, 血行遮断を解除することによって速やかに回復を示すことから, この部位における酸素供給は, 明らかに冠状動脈の血液から供給されることが確認されると同時に, 冠状動脈の血行動態に大きく影響されることがわかった. 一方, 心内膜下の, 心筋組織では, 冠状動脈の血行にほとんど影響されなかった. したがって, この部位における酸素供給は冠状動脈よりもむしろ心腔内動脈血中から心内膜を介して供給されるものと考えられた.