女性とジェンダーの歴史
Online ISSN : 2436-049X
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論文
ウルストンクラフトの性教育と(似非)科学的言説
川津 雅江
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2025 年 12 巻 p. 33-47

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抄録

 本稿は、メアリ・ウルストンクラフトの性教育論を再考する。1790年にドイツの教育者クリスチャン・ゴットヒルフ・ザルツマンの教育書『道徳の初歩』を翻訳・出版したウルストンクラフトは、自慰の害悪を防止するためには生殖器官が生殖のためにつくられたことを子どもたちに教えるべきであるという彼の考えに賛同した。『女性の権利の擁護』(1792)では、同時代の性の手引書やメディカル・アドバイス本などにおける生殖と自慰に関する(似非)科学的知識の影響を受けながら、リンネの性体系に基づく植物や身近な小動物を通じて人間の生殖について教えることの重要性を説いた。また、彼女が理想とする学校は自慰を防止するために、男女別の寄宿学校ではなく共学の通学学校で、そのカリキュラムには性教育関連の科目があった。学校における男女共通の性教育を提唱したことこそが、ウルストンクラフトが同時代の誰よりも先進的であり、時代を先駆けていた点である。

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© 2025 イギリス女性史研究会
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