山階鳥類研究所研究報告
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ムクドリの冬季塒内自然死について
黒田 長久
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1960 年 2 巻 15 号 p. 99-122

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抄録

1.関東に於ける埼玉県越ケ谷,千葉県新浜及び神奈川県小机(川向)の三ケ所のクドリの冬季塒で死鳥を計画的に拾得して,その原因,死亡率を調査した。
2.塒は11月から3月中旬まで使用されるが,死鳥は越ケ谷では主に1月以降計40羽,その他では2月に入り新浜10羽,小机24羽を得た。その内越ケ谷1羽,新浜2羽,小机2羽の外は総て同一の病因であった。
3.塒内には調査区域を標識した。越ケ谷33平方米,新浜116平方米,小机466平方米であったが,越ケ谷では実際にはその他の広い塒内の区域から死鳥を拾った。そして,全塒面積は測量できなかったが,越ケ谷では約50%,新浜30%,小机90%塒内の範囲を調査した。
4.各塒の就塒群は帰塒観察により越ケ谷50,000羽,新浜8,000羽,小机6,000羽(これは強風の日のため過少算定かと思われる)と算定した。
5.死鳥の原因は3羽の銃弾死,2羽のゴム飲下の外は総て次の症状を示した。1)屡々眠窩出血及び脳彰出による眼の突出を伴う,各種段階の脳及び頭葢骨出血,2)肺欝血(これは右側の方がひどい),3)時に心臓肥大溢血,4)頸静脈,脊髄硬膜下腔(宮本教授による),その他の出血。胃中は常に空(1例外のみ)であった。胸筋は正常又は多少衰弱程度のものが多く(稀に著しく衰う),脂肪は多量の正常のものから皆無(或者は確かに病的に)のものまで個体変異があった。
6.本病の死鳥69羽中8羽(+3羽?)には胸部や腿内面皮下にマンソン弧虫Sparganum mansoni(裂頭条虫)の寄生を発見した。これは野生鳥類寄生の初例と老えられる。腸内にも同虫(寄生率26%)や鉤頭虫(及び条虫sp.1例)が寄生する場合(計平均42%)があった。しかしマンソン弧虫と直接死因である脳や肺疾患との関連はないように思われた。病変の解剖学的細菌学的検査及び農薬の反応につき農工大宮本数授の詳細な報告を得たが,材料の鮮度の不足などで確実な病因はつかめなかった。他の原囚としてムクドリ住血吸虫(発見できなかった)による死亡の可能性についても考察した。しかし田部教授の解剖学的検査によってもその寄生は証明されず,農薬の影響については再検討を要する。
7.生態的な死鳥資料の分折から,死鳥の71%,越ケ谷では80%までが雄で,時期的には1-2月に続発することが判明した。これらについて考察を加えた。
8.各塒に於ける死亡率は調査標識面積内の死鳥数及び1立方米に15羽の就塒推定平均密度から越ケ谷1.01%,新浜0.46%,小机0.24%となったが,越ケ谷では標識面積の過小から率は過大な値となった。一方死鳥調査(標識区域外も含む)面積の全塒面積に対する率と実際の収得死鳥数から全塒の死鳥数を計算して,実測総就塒羽数に対する死亡率を出すと,越ケ谷0.16%,新浜0.33%,小机0.44%となり,二つの方法から出した死亡率の平均,越ケ谷0.58%,新浜0.40%,小机0.34%(平均0.44%)を本病による実際の死亡率に近いものと考えた。
9.死鳥の生理的検査から1)生殖器の初春の発育を検測し,2月に入って発育をはじめ,睾丸は常に左側が大きいこと,2)脂肪量は雄の方が一般に雌より多く,2月上旬多量の例が多いが,中下旬は低下する傾向を認めること,3)頭骨含気性による年令査定は死鳥の出る1~2月では殆ど全面含気性となるので困難であり,死鳥の年令差,生殖器の発育や脂肪量の年令差は判定できず,頭部出血による影響は(急性のためか)認められなかった。但し当初フォルマリンの骨内浸透により末含気性と誤認したので少数サンプルの再検定によるものである。

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