山階鳥類研究所研究報告
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3種ミズナギドリ(アカアシミズナギドリ,ハイイイミズナギドリ,オオミズナギドリ)の潜水索餌
岡 奈理子
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1994 年 26 巻 1 号 p. 81-84_3

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抄録

ミズナギドリ類の海中での索餌行動は海上からの観察に基づき報告されているが,観察が困難であるため,潜水深度などに不明な点が多い。筆者は関東に在住するダイバーに聞き取り調査し,黒潮北端沿岸域を潜水中の暗色型ミズナギドリの潜水時の行動と潜水深度を記録し,潜水中のカラー写真から種名を同定することができた。また,対馬暖流域を潜水するオオミズナギドリの行動と潜水深度もあわせて聞き取り調査した。そこで,潜水中の写真(口絵1~3)を掲載し,潜水時のミズナギドリ類の行動と潜水深度について報告する。
1) 1989年6月24日,房総半島館山沖400m,水深27mの海底に設置された定置網のナイロン製網に突き刺さったスズキ目クロタチカマス科クロシビカマス(Promethichys prometheus)を,水中遊泳していた数十羽の暗色型ミズナギドリ類のうち少なくとも数羽が網の外から採餌しているのが複数のタイバーに目撃され,ダイバーが魚を取り外し,定置網上の水深13mのところで手で与えたところ,翼部と脚部を使って遊泳接近し採餌した(口絵1a~f)。これらのミズナギドリは嘴と脚色の特徴からアカアシミズナギドリと同定した。
2) 1987年10月,西伊豆大瀬崎沖40m,水深7~8mの海底の岩に群生する数cm高の緑藻類を,潜水してきた数十羽のミズナギドリが引きちぎり,数羽が嘴にくわえて浮上するのが観察された(口絵2)。カラー写真からハイイロミズナギドリと同定した。潜水方法はジグザグに潜って浮力を殺す「落雷潜水」であった。
3) 1988年5月末,同じ大瀬崎沖50m,水深10余mの海域をダイバーが潜水中,海面に浮遊中のミズナギドリ約50羽が,ダイバーの気泡を魚影と間違え,潜水してきた(口絵3)。カラー写真からハイイロミズナギドリと同定した。
4) 1989年夏,若狭湾冠島沖で,オオミズナギドリがボートから投げられたイワシを追って最低5m潜水したのが海中で目撃された。潜水方法は,海面上数mから飛沫を上げて突入するのと,海面に浮遊し,静かに潜水する方法が観察された。
以上のことから,アカアシミズナギドリ,ハイイロミズナギドリ,さらに既報のハシボソミズナギドリの近縁3種が海面下10m以上20m近くの水深域を索餌遊泳できることが明らかになり,形態的に潜水適応しているとされるミズナギドリ属鳥類の潜水力が裏付けられた。一方,形態的特徴からオオミズナギドリ属のオオミズナギドリは潜水適応の程度がミズナギドリ属鳥類より弱いため,これまで非潜水採食の可能性が高いと指摘されてきたが,ミズナギドリ属と同様,潜水方法は空中数mからの突撃潜水も行い,水深5メートルは潜水し採食することが明らかになった。

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