山階鳥類研究所研究報告
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鳥類生態学における安定同位体測定法の応用
その現状と今後の課題
松原 健司南 浩史
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1998 年 30 巻 2 号 p. 59-82

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抄録

動物の炭素安定同位体比は,餌のそれと近似した値を示すため,餌あるいは生態系の炭素源の指標として利用される。他方,動物の窒素安定同位体比は,餌のそれに対してほぼ3.4±1.0‰の割合で濃縮される。そのため窒素安定同位体比は,動物の栄養段階の指標として利用される。鳥類の安定同位体比は同化された餌のそれを反映するため,消化管内容物の分析など従来の生態学的手法による食性解析と比較して,餌生物の過小•過大評価をさけることが可能である。ウズラなどを用いた実験によって,各臓器の炭素安定同位体の交換率が明らかにされた。その結果,複数の臓器の同位体比を比較することによって1週間から1年以上の期間に及ぶ餌の変動を解析することが可能になった。こうした知見をもとに,食性解析,行動圏や渡りルートの推定,生息環境における物質循環など,鳥類生態学の様々な分野において,安定同位体測定法はその有効性を発揮している。今後は,炭素と窒素だけではなく,水素,酸素,ストロンチウムなどの安定同位体比を利用した研究も盛んになると期待される。それとともに,より詳細な生理•生化学的な見地からの実験的基礎研究の必要性も指摘されている。

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