山階鳥類研究所研究報告
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小笠原固有絶滅危惧種メグロ Apalopteron familiare の繁殖密度推定のための簡便法
鈴木 惟司川上 和人樋口 広芳
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1999 年 31 巻 2 号 p. 80-87

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抄録

メグロApalopteron familiareは小笠原固有種(属)で絶滅危惧種とされている。本種の繁殖密度を推定するための簡便法を検討した。この方法は,通常あまり囀らないメグロが,早朝,日の出前の短時間だけ活発に囀るということを利用したものである。メグロの繁殖期の天気の良い早朝に,母島評議平御嶽神社周辺の調査地(車道なども含み,合計約3ha)内を,メグロの初囀記録後3-5分経ってから約20分間かけて移動•探索し,調査地内で囀るすべての個体を記録した。3シーズン延べ9日間の調査で得られた記録数は非常に安定していた(10-11羽)。これとは独立に個体識別とテリトリーマッピングに基づいて生息数を調べたところ,調査地内には調査シーズンにより11羽から12羽のオスが認められた。したがって調査地に生息するオスの検出率は約90%(mean±SD=88.6±4.6%,n=3)であった。ところで,囀りにより記録されたオスの中には独身であったり,一方つがいテリトリーを持って繁殖生活しているにもかかわらず囀りの認められないオスがいた。しかし本調査地(全域テリトリーで埋まる)では,それぞれの個体は共に生息オスの10%程度であり,それゆえ,早朝の一斉囀りによって記録される個体数は概ね繁殖つがい数を表わすものと見なせた。本報で述べた方法でメグロの繁殖個体群密度調査を行う際の利点は,比較的正確な繁殖つがい数推定値が得られる,簡便である,短期調査が可能,などである。欠点としては,調査時期が繁殖期に限られる,1日の中でも調査可能時間帯が限られる上,非常に短い(したがって一人が調査できる範囲が狭い),囀りだけを個体発見の手段とするので調査は好天の日に限られる,などである。

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