山階鳥類研究所研究報告
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農地及び市街地のムクドリの蕃殖率比較
第2報告 その1
黒田 長久
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1964 年 4 巻 1 号 p. 1-30

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抄録

この報告は,東京都の農地(江戸川区谷河内)と市街地(渋谷区常磐松東宮仮御所)のムクドリ巣箱コロニーの蕃殖率に関する比較で,1956,'57年度の研究(Kuroda 1959)に引続き,1963年まで(但し1958,1962年を除く)の結果をまとめたものである。内容は1)産卵開始と温度,積算温度の関係,2)産卵開始頻度の年及び時期的変化,3)1巣卵clutch sizeの年,場所及び時期的変化,4)蕃殖成功率比較からなるが,5)は別報とする。結果は次のように要約できる。
1.天候とくに気温の産卵日への影響は平均産卵日及び最早産卵日から検討した。産卵日は1巣卵の初卵日で示した。
2.平均産卵日は両コロニーで年毎に平行的な変動が示され,4月下半期の気温との関連が暗示された。
3.最早初卵日の意義について論じ検討した結果,産卵前10日間の気温や日照時が場所,年月日によらず最も一定で,その値従って積算温度が,産卵域値となると考えた。
4.食物は産卵の栄養的要因であるが時間的要因ではないという考えに到達し,この観点から,育雛期と餌条件との一致について論じた。
5.年度最早産卵は有意義に市街地コロニーで数日早く,これは市街地で農地より5日平均の気温が0.2~2.7°C高いという統計で支持され,その関連を認めた。
6.温度条件の上では産卵域値に達しても,コロニー内の心理的要因により,実際の産卵日に,とくに若鳥において,変動が起ることを観察を基にして論じた。
7.1巣卵とくにその上限は統計的に有意義に市街地コロニーで大きく,これは食物条件が完く異ることに関連すると思われ,市街地では動物食に木の実が多く混る。
8.巣箱架設後,2~3年で上限1巣卵が多くなり,4~5年目に低率となる傾向が両コロニーに共通して暗示された。これは個体群の年令転換を反映すると思われ,将来興味が持たれる。
9.大1巣卵は蕃殖期の初期に,小1巣卵は後期に産まれる傾向は両コロニーに共通で且明かに現われ,その要因及び進化的意義について考察した。

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