山階鳥類研究所研究報告
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猛禽斑とカッコウ類のタカ斑の起原について
黒田 長久
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1966 年 4 巻 5 号 p. 384-387

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抄録

筆者は1965年度生態学会総会でカッコウ類のタカ斑擬態の意義について考察を述べた(動物学集報3月1966)。その際,タカ斑自体に相手を威圧する効果があることに言及した。この短報では,それをさらにほり下げてみたい。白地に黒の太い帯をなす猛禽斑は,猛禽類の翼や尾の下面で著しい。猛禽が獲物を捕える瞬間はこの翼尾の下面の斑を最大限に展開するので獲物をすくませ,捕えてからも翼を拡げるので(体のバランスをとるため),ますます相手を威圧して捕獲を容易にするだろう。タカ斑が困難な獲物を捕える種類でより著しく発達していることは,この想定を支持する。例えば,Falco, Accipiter, Spizaetus,とくに最強のStephanoetusやハーピーイーグルHarpiaに至り斑は最も大胆であり,ノスリ,トビなどネズミを主食とするものや魚食のウミワシ類や屍食のハゲワシなどでは斑は著しくない。但しイヌワシは例外だが,このグループは比較的弱いものを捕えるアシナガワシなどの小型種から進化したものと考えられる。
この仮説は,タカ斑とそうでない模型で鳥類の反応を試せば実験的に証明ができよう。筆者が簡単な実験を行なったところでは,明らかではなかったが,組織的な実験を試みる必要がある。
ハチクマはヂバチを食べる弱い種でありながら,タカ斑を示す(とくに尾)例外といえるが,これは他の猛禽とくに人型のクマタカの攻撃に対する予防的擬態であると考えうる。この両種は共に熱帯系の森林の鳥で,セレベスのクマタカSpizaetus lanceolatusとハチクマPernis celebensisは,幼鳥は幼鳥,成鳥は成鳥に極めて類似している。この鳥では,後者はその擬態によって種を維持できたとさえ考えられる(幼鳥と幼鳥,成鳥と成鳥の類似は,タカ類に多い幼鳥の白の多い型が両者にあり,擬態淘汰を経たのであろう)。猛禽がより弱い猛禽を他の鳥と同様に獲物として扱うことは,ワシミミズクやオオタカの食餌物に多くのタカやフクロウの類が含まれている例で明らかである。
また,カッコウ類でもタカ斑はやはり翼や尾の下面にのみみられ,地上の仮親の巣を発見するのに威脅飛行を行なって親鳥を追い出す習性や産卵中仮親の攻撃を受けた時など翼尾を開き,その裏のタカ斑を展開する習性があり,籠鳥が人に対してこの動作をなしたことは昨年報じた。
かようにみると,猛禽やカッコウ類のタカ斑は,共に相手を威圧する効果があり,それにより,前者では獲物の捕殺を容易にし,カッコウ類では仮親の巣に寄生産卵の成功率を高め,共に生存に有利なため淘汰進化したものと考えられる。そこで,機能的には捕食と寄生産卵の違いがあるが,その起原は鳥類の羽斑の一つの遺伝因子(タカ斑因子)が選択強化されたものに過ぎない。そして,それに似た斑は,例えば,キジ類の翼にもみられるが,この場合は保護色効果として発達した(山階鳥類研究所)。

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