1986 年 34 巻 3 号 p. 202-206
金鶴泳は応用化学出身の作家である。中篇小説, 短篇小説を発表しつづけ, その粘りある作風で注目されながら, 作家的成熟を待たずに, 昨年1月, 46才で自死した。本誌の読者のなかには, このような同業出身の同世代作家がいたことをご存知ない方も, おられるのではあるまいか。今回, 特集「化学と芸術」の紙面を借りて, かならずしも有名ではないこの化学者・小説家を紹介しようと思い立ったのは, このまま忘れ去られるには惜しすぎる作家だと考えるからである。