1986 年 34 巻 3 号 p. 222-225
我々の右手と左手のように, 同じように見えて実際には重ね合わせることができない一対の鏡像異性体は, その名の示すように"異性体"の一分類であり, 区別することができる。しかし, 鏡像異性体の左右を化学的に区別するには, 別の鏡像異性体の助けが必要である。このように書くといかにも難しい事柄のようであるが, 実際には化合物の匂(にお)いをかぎ比べ, あるいは味をなめ比べて鏡像異性体はちがうものであることを確かめることができる。例えば, ι-メントールやι-カルボンは, 生活の中でもよく用いられるミントの香気をもつ化合物であるが, その鏡像異性体の匂いは, 我々の知っているもののそれとはかなりちがう。本稿では, "鏡像体はちがうものである"ことを"身をもって"確かめるための具体例のいくつかを示した。