抄録
会計学の損益計算構造を支える複式簿記は,13世紀初頭のイタリアで,公正証書に代わり 取引記録の信頼性を確保するための文書証拠として誕生する。14世紀半ばには,損益計算機 能を完成させ,世界の覇権の推移に伴い,フランドル,オランダを経て19 世紀初めのイギリスで会計学へと進化する。その過程で,自らの第1義的機能を記録・計算から情報提供へと変容させる。
21世紀を迎え,新自由主義経済体制のもとで株主資本主義が市場を席巻すると,会計学の 情報提供先も一般の株主から1部の大株主に転換され,彼らへの目的適合性・有用性という名のもとで会計の本質である検証可能性に裏打ちされた信頼性が大きく後退していく。
こうした状況下で,会計は,信頼性回復のための手法として法的規制と違反者への罰則を強化する。しかし,どのような強制力を伴う規制でも,必ずや抜け道が考え出される。失われいく信頼性回復のための最後の砦は,民主的な教育に支えられた確固たる倫理観と道徳観にある。それ故本稿では,会計学における両者の重要性について論究することにした。