頸城野郷土資料室学術研究部研究紀要
Online ISSN : 2432-1087
岡倉天心「アジアは一なり」のパトリ的な意味
石塚 正英
著者情報
研究報告書・技術報告書 オープンアクセス

2016 年 1 巻 2 号 p. 1-14

詳細
抄録

日本美術運動の指導者岡倉天心による英文著作『東洋の理想』(1904 年)冒頭に、20世紀日本の政治思想界に一定の影響を与えることとなるフレーズ「アジアは一なり(Asia is one)」が記されている。天心の述べたその言葉は、天心死後、とりわけ皇紀2600 年(1940年、昭和15 年)以降、アジア侵略の合言葉のように喧伝されることとなった。けれども、その言葉の意味、あるいはその言葉を記した天心の真意は侵略と正反対の内容を備えていた。天心なりの意図は、インド・中国・日本などのアジア諸地域間に見られる、文化的な次元での理念的通時性共時性を称えることなのであった。その点を「パトリ(patri 郷土)」という筆者独自の術語をモチーフに詳らかにするのが本稿の目的である。天心本来の態度は、文化芸術にかかわるパトリオティズム(アジア郷土愛)の位相である。それはローマ的・政治的な意味での家父長主義とは相対的に別物である。また、天心のいう仏教芸術は、じつはギリシア芸術に優先しているものである。

著者関連情報
© 2016 本論文著者
feedback
Top