ウィトゲンシュタインの数学論については, 彼の『数学の基礎』の, 第二版よりも遙かに充実した第三版が出版され, またクリスピン・ライトの浩瀚な研究書なども出て, 我々の周辺でも近頃話題になることが多い。しかし彼の科学論については, かつてトゥールミンが彼の小さな本『科学哲学』において, またハンソンが彼の本『発見のパターン』において, 援用していること等を別にすれば, 今も昔もあまり正面から話題にされる事がなかった-ように思われる。しかし私は, 彼の科学論は科学の本質を深く洞察していると思うので, ここで彼の科学論を私なりに整理し, その意味を考えてみようと思う。