伝統的な知覚表象説 (the representative theory of perception) は, バークリーによるロック批判にみられるように, しばしばその理論的難点を指摘されてきた。それにもかかわらず, その理論的難点は, バークリー等の知覚一元論の立場とは違った方向で解決されるべきものであるように思われる。その理由は, たしかに知覚の場面では対象=表象という二元的対置を維持することが難しく, 知覚一元論の主張に分があるように見えるにしても, しかし人間の認識一般を問題にするためには, 物質=意識という対置概念が不可欠であり, この対置概念を原理的に廃棄する知覚一元論では問題の究極の解決にはならないと考えられるからである。小論では, 知覚表象説の難点の一つである, 知覚表象の空間的時間的位置の問題を取りあげ, 知覚の物質的過程と知覚経験の関係を, 空間的時間的構造という観点から考察してみたい。それは, 知覚表象説の難点を知覚一元論によらないで解決するための重要な論点の一つと思われるからである。