1994 年 22 巻 1 号 p. 21-26
1913年, ウィトゲンシュタインは, 師ラッセルの所謂「判断の多項関係理論 (multiple relation theory of judgement)」に対して, ある批判を行った。ラッセルはこの批判によって絶大な打撃を受け, 認識論における主著たらしむべく執筆中であった『知識の理論』(R4)を, 中途で放棄するに至ったのである。私は本稿で, 従来明瞭と言い難かったこの批判の眼目について, 一つの新しい解釈を提出したい。そしてラッセルの失敗の原因を考察し, 件の批判において示されている, 思考法のある転換を明確にしたい。