抄録
ダーウィンの進化論が生物学で確固たる地位を築いた後, 進化論は生物学以外の分野においてもその思想は多大な影響を及ぼしており, 同時に進化論という言葉が多義的に用いられるようになってきている。特に優生学に代表されるような進化思想と社会をめぐる研究は数多く報告されている。その一方で, 生物学以外の自然科学分野における進化論の影響についてはあまり語られていない。
本稿は, 進化生物学者であるエルンスト・メイヤーと, 物理学的な背景をもち進化論からの影響を受け独自の科学思想を発展させたカール・ポパーの進化論解釈を比較することにより, その多義性を明らかにしようとするものである。特に, ダーウィンの進化論が問題提起したとされる人間中心主義思想に対して両者は全く異なる立場をとっている点を議論の中心的なテーマとする。