科学基礎論研究
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量子力学におけるプール束
石垣 壽郎
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2000 年 28 巻 1 号 p. 1-7

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抄録

量子力学における観測命題の全体は, プール束を構成しない。したがって, 量子力学的系にすべての物理量の値を確定的に付与し, そのことによって確定的世界の描像を与え, 量子的確率を古典的確率として解釈しなおすことはできない.しかし, 物理量それぞれに関する観測命題全体はプール束を構成する.よって, 何らかの理由 (たとえば観測, あるいはそれ以外の理由) によって物理量を1つ固定すると, この物理量に関する観測命題は真偽が確定し, これらの命題についての確率を古典的確率と見なすことができる, と考えられている.この観点から, Bub and Clifton (1996) と Bub (1997) は, 量子力学に対する, 波束の収縮を含まない様々な解釈を整理し, これらの解釈には特定物理量 (apreferred observable) が一意に対応していることを示した.その基礎になっているのが, 「一意性定理 (Uniqueness Theorem) 」である.しかし, 彼らは, この定理の証明および適用に際して, 有限次元ヒルベルト空間を扱い, 無限次元ヒルベルト空間の場合は, 有限次元からの類推にとどめている (Bub (1997).122).これに対して, 以下に示すように, 無限次元ヒルベルト空間の場合は, 有限次元からは類推のできない特有の状況が現われてくる.
本稿では, 無限次元ヒルベルト空間における物理量 (オブザーバブル) について, 観測命題の真偽が確定するという意味での確定的世界 (「真偽確定世界」), 物理量の値が確定するという意味での確定的世界 (「値確定世界」), さらに観測命題についての量子的確率を古典的確率として表現するという考え (「古典的確率としての表現」), これら3者間の関係を検討する.
Bub and Clifton (1996) と Bub (1997) が真理値確定と見なした命題がなす部分束は, そのときどきの量子力学的状態にも依存し, 特定物理量の観測命題全体の集合よりも大きくなる場合がある.しかし, 量子力学的状態が特定物理量に関する (0以外の) どの観測命題の確率をも0としないとき, この部分束は, 特定物理量の観測命題全体がなすプール束と一致する.よって, 本稿においては, この特殊な場合に注目することにして, 物理量の観測命題がなすプール束をとり上げる.

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