日本蚕糸学雑誌
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繭層の吸濕性に關する基礎的研究 (第1報)
松本 介
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1941 年 12 巻 3 号 p. 143-154

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抄録

1) 繭層、生絲、副蠶絲類等の平衡水分封關係濕度曲線を通覧するに、何れもS字形曲線をなし小栗氏、金丸氏、罨井氏、鈴木氏等の報告と全く類似せり。
2) 平衡水分と温度との關係は、同一品種に就て、關係灘度同一なる條件の下に於ては、温度高ければ、吸濕率小にして、温度低ければ.吸濕率大なり。而して温度による吸濕率の變化は關係濕度による影響に比すれば甚だ小である。此れも罨井氏、鈴木氏、ウィルソン氏、ルイス氏、其の他多くの研究者と同様の結果を得てゐる。
3) 繭層の恒温吸濕は蠶品種によって僅かながら異なり. 且つ繭暦各部位によつても異にし. 即ち外層に多く、中層此れに次ぎ、内層最も少し。然るに練絲にあっては吸濕率の差認め難き點より考察するに恐らくセリシン含有量の多少に歸着してゐるものの如く思はれる。
4) 生繭層は乾繭層に比し.吸濕率約1%内外多く、尚同一關係濕度の下に於ける生繭暦と乾繭層との吸濕率の差は關係濕度の小なる程多く (關係濕度30%に於て約15%内外) 順次關係濕度を増すに從って減少し.關係濕度70%にては僅か04%となる。生繭層を加熱處理する事によって吸濕率を減少するは主としてセリシン粒子の微細構造の變化、即ちミセル遊離面の増減によるものと推定される。
5) 繭層各部位の温濕度曲線に於けるヒステリセスは從來生絲に就て報告せられたるものと類似してゐるが只外層に小にして、中層此れに次ぎ、内層最も大である。
6) 生絲の吸濕率は繭層に比し約0.5-1.0%減少するが厚皮生絲, 中皮生絲、薄皮生絲の吸濕率は繭層と同様の傾向を有してゐるが. 練絲にあって依吸濕率の差全く認め難く且つS字形恒温吸濕曲線も繭層の場合とは稍異つてゐる。
7) 副蠶絲類にあっては吸濕率毛羽最も多く, 次に蛹襯、生皮苧は最も少し。關係濕度70%の下にあっては約0.5%内外の差を示して居る。
尚ほ本報告は第12回日本農學會第2部會に於て發表せるものである。

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