日本蚕糸学雑誌
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柞蚕の越年ご環境, 特に日長効果 (V)*
田中 義麿
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1951 年 20 巻 2 号 p. 132-138

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抄録

1) 柞蚕の休眼性支配に関しては從來全く文献を見なかつたが, 著者は柞蚕蛹の越年不越年 が遺傳的素質と日長, 温度, 飼料等の環境要素とによつて決定されることを確めた。
2) 中でも幼虫期の光週効果は決定的で, 第1, 第2化期ともに日長処理だけで全部越年させることも或いは全部不越年にすることも意のままである。
3) 幼虫期は稚蚕と壮蚕とを問わず, 短日は越年化, 長日は不越年化の方向に働き, その効果は同一処理に遭遇させる期間の長短に比例し, 蚕令の老若には関係がない。卵期は反対に短日不越年化, 長日越年化の現象が認められたが, これにはなお幾分疑問がある。蛹期は殆んど日長の影響を受けない。
4) 1晝夜を單位とする日長処理に於て完全な短日として作用するのは1日5-13時間明で, 長日作用は16時間以上の照明に於て完全に発現し, 14-14.5時間は中間日長として中性的に作用する。換言すれば中間日長の場合は遺傳的特性または他の環境要素の影響が最もよく発現する。
5) 2晝夜單位の場合は48時間のうち39時間以上明が長日, 37時間以下が短 (日として働き, 3晝夜單位の処理に於ては72時間のうち62時間以上明が長日, 60時間以下が短日として作用する。
6) 常暗及び常明はそれぞれ短日及び長日の極端な場合として作用せず, 両者の効果は相伯仲してほぼ中間日長に近い。しかし精査すれば常暗は常明に比して幾分越年化の傾向がある。光週効果の完全な発現には, 明暗が一定の週期を以て交替することが必須條件である。
7) 光週効果が單に日の長さに支配されるというのも, 反対に夜の長さで決定されるというのも共に正しい表現でない。日長, 夜長とも一定の継続時間を必要とする。
8) 柞蚕の光週性は單眼を通じて起るものではなく, 恐らく全身の皮膚に光線の刺戟を感受するためであろう。
9) 越年性の強弱に関し量的に種々の段階の存することが不時発蛾その他の実驗結果から推測される。
10) 越年性に関するA, Bという2つの物質を仮定した。A物質は明中に於て光化学的に形成せられ, B物質は暗中に於てA物質より化成される。B物質が一定量に達すれば蛹体は硬化して越年性を帯び, それ以下では蛹体は柔軟で不越年となる。A物質の生成には比較的短い明時間, B物質の転化には稍々長い暗継続時間が必要である。
11) 越年性の支配は実際上並びに研究上幾多の重要な応用領域を有する。

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