抄録
Bacillus thuringiensis の結晶性毒素をカイコ幼虫に経口接種して, 毒素の中腸皮膜に対する細胞障害について病理組織学的に観察を行った。中腸皮膜の変性は経口接種後30分以内に, 主として前部の細胞群で生じた。円筒細胞では, まず微絨毛が変形, 消失した。次いで細胞質の先端部のミトコンドリアと小胞体が変形, 崩壊した。さらに細胞質は電子密度の低下と共に膨潤し, 胃腔に向かって突出した。突出した細胞質は破裂したり, 胃腔内に脱落した。一方, 盃状細胞では細胞質の変性に伴い, 微絨毛が変形, 消失し, 微絨毛内のミトコンドリアは細胞質に移行して崩壊した。細胞質が変性すると, 細胞は基底膜上で球状に縮小した。両細胞の障害は同時に生起し, 平行的に進行した。本報告は中毒蚕の致死と, 盃状細胞のイオン調節機能の失調との関連についても病理組織学的に考察を行った。