2008 年 65 巻 3 号 p. 218-227
アイソタクチック・ポリブテン 1(it-PB1)の正方晶と三方晶について,SAXS および DSC 測定,メルト成長キネティクスのその場観察から,結晶相の側面と分子鎖折りたたみ面の表面自由エネルギー σ と σe を決定した.正方晶の σ の値は Hoffman の表面自由エネルギーのモデルから得られる理論値 σHoff とほぼ一致したが,三方晶の σ は理論値 σHoff の約 7 倍の値であった.it-PB1 分子鎖が三方晶の表面核を形成する際には,従来の Hoffman のモデルで想定されている分子鎖のセグメント化と整列の過程だけでなく,エチル側鎖のコンホメーションが制限を受ける過程を導入すると理論からの乖離を説明することができる.側鎖のコンホメーションが制限されるために,側鎖のコンホメーションのエントロピー損失が表面核形成の自由エネルギー障壁を大きく押し上げ,その結果として理論から導かれる σHoff よりもはるかに大きい σ の値として現れていると考えられる.