2010 年 67 巻 11 号 p. 632-639
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は,I 型,II 型,III 型の 3 つの結晶構造を有し,通常異なる溶媒からキャストして作製される.本報では,1 つの溶媒に対し,キャスト後の溶媒の乾燥温度を変えて溶媒の蒸発速度を制御することで,PVDF の 3 つの結晶構造を作製することを試みた.PVDF をヘキサメチルホスホアミド(HMPA)溶媒に溶解させ,キャスト後の乾燥温度を変えて溶媒の蒸発速度を制御した結果,25~40℃ 乾燥では PVDF I 型,160~170℃ 乾燥では PVDF II 型,80~100℃ 乾燥では PVDF III 型の結晶構造が作製できた.これは,PVDF I 型は溶媒の蒸発速度が遅いときに作製され,II 型は速いとき,III 型はその中間の速度のときに作製されるためだと考えられる.そこで,乾燥温度を 25℃ に固定し,真空ポンプを用いて溶媒乾燥時の圧力を変えることで溶媒の蒸発速度を制御することにした.その結果,0.005 MPa では PVDF III 型に PVDF II 型が混合し,0.01~0.05 MPa では PVDF III 型,0.08 MPa では PVDF I 型を作製することができた.