2010 年 67 巻 3 号 p. 214-223
ラセミ単位を鎖中央部に含むポリ乳酸(PLA)のコンホメーションを理論的に解析した.このため,25 量体の L-乳酸シーケンス(1)とその中央の 13 番目を D-異性体に置換したシーケンス(1-D)を取り上げた.両方の PLA において,幾つかの初期構造を半経験的分子軌道計算により構造最適化し,収束構造のエネルギー値を DFT 一点計算によって再評価した.1 の八つの周期構造からの最適化において,“g-t”型らせん構造が最安定となった.1-D の場合,対応する構造は概してエネルギー的に不安定化したり,中央部付近でひずみを招いた.1 の最安定な“g-t”型らせんに組み込まれた D-乳酸単位は全体の分子鎖を三角形状に変化させ,1 に比べて鎖末端距離を約 25% だけ縮小させた.結論として,一つのラセミ単位を長いホモキラル PLA 鎖へ導入すると,元の物理化学的特性を変化させるような大きな構造柔軟性が発生することが明らかとなった.