2015 年 72 巻 12 号 p. 746-751
筆者らはI型コラーゲン繊維の熱変性過程を振動円二色性(vibrational circular dichroism:VCD)分光法によって追跡した.繊維のVCDスペクトルでは1635 cm-1,1660 cm-1の二つの右円偏光活性ピークからなるアミドIバンドを観測した.このバンドは,繊維のユニットである三重螺旋構造に特徴的なII型ポリ-L-プロリン構造のバンド形状(1620 cm-1,1680 cm-1にそれぞれ右円偏光活性,左円偏光活性バンドを示す)と異なることから,繊維構造と三重螺旋構造がVCDスペクトル上で明瞭に識別可能であることを示した.また繊維の熱変性によるVCDスペクトルの一連の変化から,繊維構造が崩壊後に三重螺旋構造が崩壊し,それから無秩序構造に転移することを立体構造変化から直接示した.さらに,三重螺旋構造から無秩序構造に転移する過程で,1650 cm-1付近のブロードな右円偏光活性バンドで特徴付けられる新しい中間体構造を見いだした.