2019 年 76 巻 3 号 p. 185-195
高分子のバイオイナート特性の発現機構の理解を目的に,水界面におけるポリ(アクリル酸2-メトキシエチル) (PMEA)の凝集状態および熱運動特性を評価した.PMEAは室温でゴム状のため単独での製膜が困難である.そこでポリマーブレンドにおける表面偏析技術を駆使することで薄膜最外領域に安定なPMEA層を構築した.水界面におけるPMEAの凝集状態は分子量に依らず同様であるのに対し,水の凝集状態はPMEAの分子量が低いほど秩序性が低下した.またPMEAは分子量が低いほど高い運動性を示したことから,PMEAの局所ダイナミクスが界面近傍における水の凝集状態と密接に関連していることがわかった.さらには,PMEAの分子量が低いほど生体成分の界面への付着が抑制された.すなわち,PMEAの熱運動は低分子量体ほど速く,このことが界面近傍の水分子の凝集状態の乱雑化ひいてはバイオイナート特性を発現する一因と考えられる.