1990 年 47 巻 12 号 p. 961-965
市販ポリエーテル・エーテル・ケトン繊維に多段ゾーン熱処理法を適用し, その力学的性質の向上を試みた. この方法は熱処理温度と印加張力を段階的に増加させて5回のゾーン熱処理を行うものである. 5回のゾーン熱処理を施した繊維のヤング率は11.7GPa, 切断強度は1.11GPaを示し, 市販繊維の2倍である. 室温でのゾーン熱処理繊維の動的弾性率は13GPa, 280℃付近でも3GPaと高い. また, この繊維の複屈折は0.316に達し, 理論計算による固有複屈折の0.34に近い. 複屈折の加成式から算出した非晶複屈折とヤング率の間には比例関係が認められた. また, ゾーン熱処理で結晶化度は28%から40%に増加するが, 結晶部配向係数と結晶サイズはほとんど変化しない. これらの結果から, 力学的性質の改善は非晶鎖の配向向上によって達成されたものと考えられる.