口腔病學會雜誌
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齒性顎嚢腫と鑑別す可き所謂術後性頬部嚢腫に就いて
森本 正紀中島 政彦伊藤 秀夫
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1941 年 15 巻 2 号 p. 129-140

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抄録

自分逹は4例の所謂術後性頬部嚢腫症例を記載し, 其成因を檢討して見た。夫等の内3例は病歴, 齒牙所見, 手術所見, 組織檢査等より思考して, 上顎洞根治手術施行に當り, 不注意にも殘逸せられた洞粘膜の一小片が術後性瘢痕組織内に埋沒せられて發生せる久保教授の所謂瀦溜嚢腫と解せられたが, 他の1例の所見は甚だ特異にして, 其成立機轉の説明には大いに當惑した。即ち該例に於いては齒根尖端が嚢腫と密接なる關係を有し, 嚢腫壁上皮層に扁平上皮と共に圓柱上皮を認めた。それで自分逹は所謂術後性頬部嚢腫の成因に關する從來の諸説を囘顧, 吟味してみたが, 何れも該例には充分な解説を與へない。結局自分逹は本例は, 上顎洞根治手術時の齒根尖端損傷, 洞粘膜一部の殘存てふ2原因の下に發生せる嚢腫と理解せざるを得ない。かゝる顎嚢腫を經驗した自分逹は, 從卒所謂術後性頬部嚢腫の成立機轉に就いて5指に餘る解説が試みられ, 歸一するところのない現状であるが, 本嚢腫と齒牙との關係は等閑視せられてゐるやうじ感じ, 齒牙との交渉を一層精査すれば, 該嚢腫の成因考按に更に別な一面が現れて來るであらうと推察するに至つた。
臨擱筆, 常に御懇篤なる御教導を賜はる島峰校長に滿腔の謝意と敬意を捧げ, 外科教室任中村, 河野兩教授の御教示を深謝する。又文獻渉獵上に終始多大の御便宜を與へて下さる東大耳鼻咽喉科教室主任増田教授に鳴謝する態忘れ得ない。

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