口腔病学会雑誌
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上顎骨歯槽突起および下顎骨歯槽部の汎発性骨増殖を伴なった歯肉線維腫症の一治験例―補綴的立場から―
松本 直之松本 正古屋 紀一清水 健吾
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1969 年 36 巻 4 号 p. 335-340

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抄録

ここに紹介する患者は, 高度の骨増殖があり, 審美的, 咀嚼障害のため来院した。私達は補綴的立場から, 顎態模型, 頭部X線規格写真を中心として検討し, 上顔面部には大きな異常を認めず, 下顔面部, とくに上顎骨歯槽突起および下顎骨歯槽部に増殖があり, また下顎位にも増殖による咬合高径の増大がみられると診断した。治療に先だち関連科, すなわち, 保存, 矯正, 口腔外科, 補綴科よりなる診療計画班を結成し, 総合的な診療方針を検討した。その結果増殖部を全歯牙とともに外科的に除去し, のち全部床義歯を装着することにより, 審美的, 機能的な回復を得ることが出来ると考えた。
〈治療経過〉
まず頭部X線規格写真トレース紙上で各種計測を行ない, 標準偏差図標と比較, 削除予定部位を印した術後予想図を作製した。次にこの予想図を参考として模型に削除予定部位を印記, 同部を削除, 修正を行ない術後予想模型を製作した。この模型上でtemplateを製作し, 手術時の基準とした。
手術後2週で義歯製作を開始した。この症例でとくに問題となる咬合採得は, 形態学的, 機能的方法を用い咬合高径を決定した。
完成義歯装着後は術前に存在した障害はすべてなくなり, 患者の満足を得たが, ただ他覚的に, 微笑時, 前歯部義歯床縁が露出し自然感を損うこと, 咬合高径がやや高いと思われること, 又咬合高径が術前に比し低くなったために上下臼歯部結節部が接触し, 後方への床の延長が不可能であることから再度上顎前歯部, 結節部の除去を行なうことにした。
4カ月後再手術を行ない, 再度義歯を製作した。その結果頭部X線規格写真を用いた分析ではSkeletal patternでConvexity, mandibular plane, Denture patternでinterincisa1, L-1 to Mand, U-1 to A-P plane, U-1 to N-Pplane, U-1 to FH Plane, U-1 to SN planeにおいてともに標準偏差内あるいは標準偏差値近くになり審美的回復が明瞭であり, 又咀嚼障害, 発音障害もなくなり, 自覚的にも他覚的にも十分に満足すべき結果が得られた。

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