口腔病学会雑誌
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エナメル質に対する酸性弗素燐酸溶液の作用に関する理化学的研究
荻野 昭夫
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1970 年 37 巻 4 号 p. 348-358

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抄録

酸性弗素燐酸溶液 (F: 1.2%, H3PO4: 0.1M, pH: 3) の作用によってエナメル質中に取り込まれた弗素が, どのような形で存在するか, さらにはエナメル質において結晶学的にどのような変化がみられるかを知るため, 牛歯エナメル質およびヒトの乳歯, 永久歯エナメル質を用い, X線回折分析法と赤外線吸収スペクトル分析法を併用して検討すると同時に, 乳歯エナメル質および永久歯エナメル質との場合を比較検討した。その結果次のような結論を得た。
1.未作用の牛歯エナメル質粉末のX線回折図形は特異的なアパタイトピークを示しているが, これに酸性弗素燐酸溶液を4分間作用させると, 特異的なアパタイトピークの強度が著明に減少し・反面・幅広いCaF2のピークを容易に検知することができた。この傾向は14日間作用においてさらに著明に認められた。
2.牛歯エナメル質粉末に酸性弗素燐酸溶液を4分間および14日間作用させた場合, 回折図形や算出した格子定数の比較からいわゆるフルオロアパタイトへの変化は殆んど認められなかった。
3.作用時間と共に牛歯エナメル質のピークの強度は徐々に減少し, 回折線の分離も不明瞭になり, 明らかにcrystallinityの低下をきたした。しかしながら14日間という長時間作用後においても, 本来のアパタイト構造は基本的には残っていた。
4.乳歯および永久歯エナメル質の赤外線吸収スペクトルからも, 基本的には共にアパタイト構造を示し, 作用後においても, 14日間作用時の472cm-1吸収バンドの消失を除いては著しい変化を認めることはできなかった。しかしながら乳歯エナメル質の方が多少溶液の作用による影響を受け易いように思われた。
5.酸性弗素燐酸溶液の局所塗布がかなりの齲蝕抑制効果をもつという報告がみられるが, 本研究の結晶学的観察ではすべてin vitroの実験であるので, その結果を臨床成績と直接関連づけて比較検討することは困難であると思われる。

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