2016 年 62 巻 3_4 号 p. 131-137
現代精神医学では,不安障害の治療は「病的症状」の程度や数を軽減することである。これらの症状は,生物学的基礎をもった“病的不安”により生じるとされるが,かつてはこの“病的不安”を,エスから起こる衝動(性欲)により(S.フロイト),また思想の矛盾(「生の欲望」と,「死の恐怖」のギャップ)により(森田正馬)もたらされると考えられてきた。この二つの説は共に,症状の出現が“欲求の挫折”(欲求不満)から起こることを示唆している。そこで,他の精神障害でも,“挫折した欲求”が解消すれば,症状が消失するかどうかを調べるための症例検討である。
本症例は22歳の女性の外来患者で,拒食,強迫行為,薬物乱用,不眠など多彩な「病的症状」を抱えていたが,生育歴と主訴から“愛情欲求”の挫折が示唆された。「病的症状」はそのままに,“挫折した欲求”のみを修復する治療を行った。治療開始半年後に欲求が充足され始めると,まもなく全ての「病的症状」は消失した。