九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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神経筋疾患の排痰法
*川上 公孝篠原 敦早川 恵子高畑 起世子高橋 朋子宗藤 正剛奥野 慎太郎中野 美保十時 加練三好 正堂
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p. 145

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抄録
【はじめに】
 慢性閉塞性肺疾患の呼吸管理に比べ、肺活量の低下した神経筋疾患の呼吸管理の記載は少ない。当院では1996年よりJohn R.Bach:Pulmonary Rehabilitation,1996を参考にし、ALSなどの神経筋疾患の呼吸管理を行ってきた。神経筋疾患では排痰が特に重要で、それには体位ドレナージやタッピングなどがあるが、今回それら以外の排痰法について報告する。
【排痰法紹介】
 1)アンビューバッグによる最大吸気保持量(maximal insufflation capacity以下MICと略す)の増加:最大吸気の直後にアンビューバッグでさらに空気を送り、それを蓄えてもらう。これを数回繰り返し、吸気保持量を増す。ここから咳をさせると呼気流速(peak cough flow以下PCFと略す)が増え、排痰を促すことができる。保持できる最大の吸気量をMICという。
 症例1:47歳・ALS。鼻マスク補助換気が24時間必要で、肺活量(VC)170ml(%VC;4.4%)、PCF 0.3L/s、一回換気量(TV)61ml、球麻痺は軽度であった。訓練によりアンビューバッグの送気を連続5回保持できるようになりMIC 2360ml(61.5%)、PCF 2.7L/sになり、痰の喀出が可能になった。気管切開を遅らせ、8年間鼻マスク補助換気を行うことができた。
 2)舌咽頭呼吸によるVCの増加:舌と咽頭、喉頭を随意的にポンプのように動かし、肺に空気を送り込む呼吸法で、肺活量を増すことができる。
 症例2:27歳・C3頸髄損傷。人工呼吸器を離脱していたが、VC 720ml(17.6%)、PCF 2.0L/s、TV 350mlで、喀痰が困難なため気管カニューレを挿入したままであった。舌咽頭呼吸を35回おこなった時VC 2870ml(70.3%)、PCF 6.2L/sとなり喀痰が容易になった。そのため気管切開孔を閉じることができ、発声や嚥下も容易となった。
 3)カフマシーンによる排痰:陽圧(+40cmH2O)で肺に空気を入れたあと、急速に陰圧(-40cmH2O)にして痰を除去する機器である。呼気流速は10L/sに達する。気管切開をしていない場合にはマスクを用い、気管切開の場合には気管切開孔から行う。
 症例3:50歳・ALS。気管切開による人工呼吸を24時間要する状態でありながら在宅療養に入り、カフマシーンを購入し毎日使用したところ、5年間肺炎を起こしたことがない。
【考察とまとめ】
 神経筋疾患では、吸気・呼気筋とも障害され、喀痰が困難になる。Bachらは痰が呼吸苦や肺炎の原因となるため、排痰を促す理学療法としてPCFを増やす方法がきわめて重要と強調している。 MIC、カフマシーン、舌咽頭呼吸、さらに咳の時に上腹部を圧迫するなどの方法で肺炎や無気肺を防ぎ、気管切開を遅らせたり閉鎖できた症例もあったことを報告した。
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© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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