抄録
【はじめに】片麻痺の歩行では、麻痺側上肢の振りは少なく、体幹の回旋が大きくなる傾向にある。これらを解析するには三次元動作解析装置を用いることとなるが、被検者の負担が大きくなる。もう少し簡便な方法となると床反力を用いた方法が考えられる。床反力より得られる値は、3方向分力や作用点軌跡が代表的であるが、その他に偶力がある。この偶力は体幹の回旋の程度や上肢の振りと関係していると言われている。そこで、この偶力を用いて片麻痺の歩行解析が出来ないかを検討するため、健常者の通常時歩行と上肢固定での歩行時の偶力を検討したので報告する。
【対象】健常人男女6人 平均年齢:29.8歳
【方法】二枚の床反力計上を一歩ずつ通常の歩行と両上肢を三角巾にて体幹に固定した状態での歩行をそれぞれ3回計測し、3方向分力と偶力の平均値を算出した。得られた値より各方向の波形の積分値を算出し、通常歩行におけるこれらの値と上肢固定時の値の差を求めた。
【結果】左右脚の3方向分力と偶力の積分値の差は、通常歩行に比べ上肢固定時の歩行が大きくなる傾向にあった。その値は、前後分力の前方分力は右1768.7±1402.7N・sec、左1457.6±833.9N・sec、後方分力は右1797.3±1521.2N・sec、左3172.5±4007.1N・sec。内外側分力の内側分力は右-1005.6±1778.2N・sec、左-795.7±1440.9N・sec、外側分力は右1060.7±1725.1N・sec、左212.6±955.9N・sec。鉛直分力は右12831.3±4724.3N・sec左7969.8±7990.0N・sec。偶力のプラス成分は右146.0±202.4N・sec、左69.3±115.0N・sec、マイナス成分は右0N・sec、左-35.7±185.9N・secであった。
【考察・まとめ】偶力とは、作用点の鉛直軸周りのモーメントを表します。これは、床面を鉛直軸にひねる量で、このモーメントが作用しないと氷上を歩くようなものと言われています。今回の結果より、上肢固定での歩行は各分力と偶力の値が通常の歩行に比べ大きくなる事が解った。このことは健常者でも上肢固定による歩行で波形に変化を生じることは、片麻痺の歩行でも波形に変化を生じると考えられ、床反力を用いた解析でも十分な評価を行うことが出来るのではないかと考えられる。しかし、偶力に関しては、特異的な結果を得ることは出来なかったことは、この点について更なる検討が必要であると思われる。また、波形の形状の変化も考えられるためこの点も考慮した解析方法を検討していきたい。