九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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情緒発育に必要な知的・運動の発達的要因
就学時期前後における身体・精神面へのアプローチ
*新原 牧子中村 誠壽
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キーワード: 発達, 情緒, 能動性
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p. 34

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抄録
【はじめに】
一般的に、運動面の発達は身辺自立や遊びの発達の背景となり精神機能に影響を及ぼす。これは、日常生活場面におけるモチベーションの向上と共に能動的な生活に繋がる。今回、就学期における運動の発達と共に、日常生活における言語と動作の結びつきが増えてきた症例について、情緒的な不安が減少する過程で精神機能の向上との相互作用について考察したので報告する。
【症例紹介】
診断にDandy Waker症候群、水頭症、精神発達遅滞を持つ8歳の男児。両上肢のPush Upによって自ら起き上がり、割り座保持が可能。移動は主に寝返りで選択的に両方向に可能。上肢は各方向にReachが可能で、Graspは形状によってlateral pinch、pad pinchまで可能。感覚面では注視や追視、また聴覚音源定位がある。知的面は歌遊びや手遊びを好み、簡単な言語指示を理解出来る。情緒面では慣れない場所で不安な表情をする。自分の手を噛む等の動作が見られる。コミュニケーションは注意を向けて欲しい時などに発声が聞かれる。
【治療アプローチ及び経過】
運動面では、腹臥位における骨盤の持ち上げと後方への重心移動を反復して援助し、抗重力筋強化を積極的に取り入れた。同時に膝立ちや立位における支持性の向上から腰帯部が安定し、腹臥位からの起き上がりと割り座を獲得できた。精神面では、模倣動作や要求の表出を積極的に促し、興味が持続しづらい物を介した遊び中で型はめなどを行った。これにより視覚情報を上肢の使用に応じて取り入れるようになり、日常生活で使用する物の絵カードを用いたマッチングを導入できた。結果、偏りのあった遊びの幅が広がり、積極的な要求が見られるようになった。訓練の中では拒否をぐずりで示す事も多くあったが、知的・運動面の向上から感情表現が豊かになり、二者間での関係性を学習するようになった。
【考察及びまとめ】
自ら姿勢変換し座位を獲得できたことは、周囲の環境との相互作用を理解し、立体空間での視知覚の変化に繋がったものと考える。これにより視野内での上肢の使用が増え、遊びの幅が広がったと言える。これら運動の向上に伴って言語理解が結びつき、自ら環境に働きかけることが増え、このことは情緒が安定した一因と考えられる。情緒の安定は、精神的な不安定さから起こるぐずりの減少にも繋がったと考えられ、意思表出の困難さにより相手に伝達できない事や生理的要求が理解されることで精神的な安定に繋がっていると言える。症例のぐずりに関しては、未だ理解ある周囲の介入が必要であるが、知的・運動面の向上から自己コントロールが可能であると思われる。今後、葛藤やストレスに対し自ら制御できれば、場面に応じた様々な関係性の学習が期待できると考える。
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© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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