抄録
【はじめに】
当院では小児外来リハビリテーションの対象としてダウン症候群(以下ダウン症とする)の数が増加してきており、発達的特徴を捉え、適切なアプローチを検討する必要がある。そこで、今回ダウン症児の発達特徴について家族に調査を行い、若干の知見が得られたので報告する。
【対象】
当院通院中の独歩可能なダウン症児で、家族への調査により発達の経過を追えた11名(男性2名、女性9名)である。
【方法】
発達特徴の調査は、乳幼児精神発達診断法(以下津守式とする)から抜粋した定頚、寝返り、お座り、這い這い、つかまり立ち、伝い歩き、独歩の粗大運動7項目の獲得月齢についての質問紙を作成し、家族へ配布した。回収後、各項目の詳細な運動特徴について家族に聞き取り調査を行った。これらの調査後、獲得時期の平均値を算出し、正常児データ(津守式において各項目の月齢通過率約60%を配当月齢としており、以上を正常データとした)との比較検討、また各個人の7項目においてpeasonの相関行列を求めた上で各項目毎の比較検討と、個人の特徴を検討した。
【結果及び考察】
各項目におけるダウン症児11名の平均月齢と正常データを比較すると、全ての項目において正常児より遅れを認め、発達経過とともに正常児との差の拡大を認めた。ダウン症児の平均月齢を以下に示す(括弧内は正常データ)。定頚6.0±2.6(2.0)ヵ月、寝返り7.5±3.8(4.0)ヵ月、お座り14.5±5.0(7.0)ヵ月、這い這い18.5±8.4(10.0)ヵ月、つかまり立ち21.0±9.1(10.0)ヵ月、伝い歩き23.9±9.4(11.0)ヵ月、独歩29.6±10.2(15.0)ヵ月であった。
次に、個々における各項目別の獲得時期については正常範囲内で獲得している項目もあった。正常データ内と津守式における最大通過率月齢以内(括弧内に示す)での獲得人数を以下に示す。定頚1(4)名、寝返り2(7)名、お座り0(3)名、這い這い1(4)名、つかまり立ち0(2)名、伝い歩き0(0)名、独歩0(3)名であった。立位・歩行を中心とした抗重力活動は正常範囲内での獲得人数の減少を認め、岡安らのダウン症児は伸展筋の緊張を多く必要とする抗重力的な姿勢保持機能が質的に低いレベルであるという意見と一致した。また、寝返り以外の全ての項目間で正の相関を認めた。しかし、寝返りにおいては定頚より早く獲得する児もおり、各個人においてばらつきを認めた。
今回、独歩獲得が40ヵ月という非常に遅い時期に獲得している児が3名であったが、独歩獲得の早い群(最大通過率月齢18ヵ月以内)と比較すると獲得時期の遅れのみならず、ワイドベース、スピードが遅い等の歩行の質的問題を認めた。これより、独歩獲得が遅い児は獲得後も運動の質的改善へのアプローチが必要であると考える。