抄録
【はじめに】今回、膝伸展機構の損傷の中でもまれである膝蓋腱断裂と前十字靭帯(以下、ACL)断裂に同側リスフラン関節脱臼骨折、対側足関節脱臼骨折を伴った症例を経験したので報告する。
【症例紹介】21歳男性、早朝飲酒後帰宅した際自宅階段で転落し受傷。救急車にて当院救急外来受診後入院となる。レントゲン、MRIにて、右膝蓋腱断裂およびACL断裂、右リスフラン関節脱臼骨折、左足関節脱臼骨折が確認され観血的治療施行する。右膝関節はワイヤーにて大腿四頭筋腱と脛骨粗面を引き寄せ締結し、膝蓋腱および関節包を可及的に縫合した。右リスフラン関節は脱臼整復し内側楔状骨、舟状骨をスクリューにて固定した。左足関節は腓骨をプレートにて、脛腓間をスクリューにて固定した。右大腿部から足部まで、左下腿部から足部までをシーネにて固定した。
【術後理学療法と経過】理学療法は術後3日より開始した。術後2週でACL用膝装具に変更し関節可動域運動を開始し、そのときの膝関節屈曲角度は50度であった。術後4週より右膝関節の積極的な筋力トレーニングが許可された。膝蓋骨下方に大腿四頭筋収縮時の疼痛があり、膝伸展運動やSLRは困難であった。術後5週で右足部スクリューおよび左脛腓間スクリューが抜去され両下肢全荷重を開始した。右下肢は大腿四頭筋の筋収縮はごくわずかであったが、膝伸展位では疼痛なく全荷重可能であった。術後6週では右膝関節屈曲角度110度、松葉杖歩行および右SLRが可能となった。その後、徐々に改善し、術後9週で右膝関節伸展筋力MMT3-レベルではあるが、右膝関節屈曲125度、独歩、右下肢免荷による階段昇降が可能となり退院となった。
【考察】本症例の術後理学療法を行うにあたり、可動域運動では締結したワイヤーの断裂を起こさないよう愛護的に行い、膝蓋骨のモビライゼーションもワイヤーにより下方へ引き下げられていることを考慮しつつ注意深く行った。文献的に膝蓋腱断裂の術後療法は荷重制限を与えることは少ないとされている。本症例の場合、同側足部、対側足関節部の脱臼骨折を合併していた為、術後5週間の荷重制限を余儀なくされ、その間の筋力低下を最小限に抑えることが課題となった。しかし、疼痛が阻害因子となったため、膝蓋腱部へ超音波を使用し、筋収縮を促通する目的で中周波を使用するなど物理療法を積極的に用いた。最終的には独歩可能となったが、今後の課題として大腿四頭筋筋力低下やACL断裂による立脚中期の膝の不安定性や同側足部、対側足関節部の急な痛みなどにより起こる膝折れには十分な注意が必要だと考えられ、退院後の経過もフォローしていく必要がある。