抄録
【はじめに】
認知症患者のデイケア導入期には、不安・帰宅要求がみられることが多い。今回、帰宅要求の強い認知症患者を経験し、その対応について検討したので報告する。
【症例】
70歳代、男性、診断名:アルツハイマー型認知症。60歳代で発症し現在まで約10年経過、妄想、興奮、易怒、暴力行為がみられ家族の介護負担軽減目的で重度認知症デイケア(以下デイケア)参加となった。OT評価では、MMSE5点、CDR2、協会版認知症アセスメントは「体は元気・不安が強いタイプ」であった。症例の行動障害である帰宅要求は、見当識障害からデイケアという場が認識できず不安となり、それが不穏に発展しているものと推測した。
【方法】
当院のデイケアが実践する「導入期のケア」とは、1)帰りたい理由を聞く2)解決する方向で会話しながら、どうしたら安心できたり解決したりするのかを整理する3)間を空けながら、お茶を出したり活動に誘導したりしながら気をそらす(上手く活動に導入できれば、次の訴えが起るまで見守る)4)それでも訴えが続く場合は、「○○をすれば安心できますね」と確約をとり、できることがら対応し3)を再び行うものである。
【経過】
1から4週目:参加日数を重ねるに伴い帰宅要求が頻回に出現するようになった。また、拒否や易怒も伴うこともあり対応に苦慮していた。送迎拒否による不参加の日もあった。帰宅の理由は、妻とのやり取りや仕事のトラブルなどが中心であった。5から7週目:「導入期のケア」を実践する中で帰宅の理由を整理し、最終的に妻と電話で話せれば落ち着くといったパターンでうまく対応できる日が増えてきた。また、体を使う活動に徐々に参加できるようになり、帰宅要求のない日が少しずつ増えてきた。初参加から8週目にはほとんど帰宅要求はなくなった。
【考察】
導入期において、適切な対応がとられないと精神症状が増悪するだけでなく、デイケア導入も困難となる可能性がある。今回、症例の要求を聞き問題を整理し、解決したら問題が解決したことをフィードバックすることで、対応したスタッフを頼りになる人と認識したこと。そして、症例の会話から良い反応を引き出すキーワードを探り、それらを用いた対応をスタッフが積み重ねたこと。これら2つの統一的な対応によりデイケアのイメージが漠然と良い所として般化され、落ち着いて参加できるようになったものと考える。今回の症例では、このイメージによって短期記憶障害がありながらも、新しい環境へ適応できたのではないだろうか。したがって、円滑なデイケア導入のためには、スタッフがデイケアという環境の中で信頼され、安心できるように関わり、良い反応を積み重ね、デイケアに対する良いイメージを認知症患者に植え付ける作業が重要であろう。