抄録
【目的】
広汎性発達障害(以下、PDD)に対する療育では環境整備としての家族指導が大切だが、時間的なゆとりがない事や専門的なスタッフが少ないなど十分に対応できていない現状がある。今回服薬によって多動を抑えたいという母親のニーズに対しPDDの子どもに塩酸メチルフェニデート(以下リタリン)を投与したことをきっかけに、子どもの行動の意味を具体的に医者、セラピストから家族に説明する機会を得ることができた。子どもの行動の特性を定期的に伝えることにより家族が子どもを理解し関わりが受容的になった事で表出、理解面に成長が見られ、子どもの行動も有目的なものに変化した症例を報告する。
【方法】
服用経過:朝、昼 各3mg、計14日分服用Dr:毎月1.5hの面接(良い変化を具体的に伝えてもらう)OT:週1回の作業療法
【評価】
SM社会生活能力評価表・薬剤投与10ヶ月前(4:9)、5ヶ月後(6:0)社会生活年齢(SA)2-8→3-2社会生活指数(SQ)58→51
【結果】
薬剤投与前の子どもの状態は単語レベルで理解できないことが多く、落ち着いている時のみ母親のジェスチャーから指示を理解する事が可能であった。本来リタリンはADHDやナルコレプシーのみに効果があると言われているが、母親の強い望みと子どもを客観的に見ることを期待して処方となった。服用後1ヶ月位から子どもがサインを理解し表出が増え(Dr、作業療法士から伝えてもらい初めて気づく)、母親、セラピストの表情を見て待つことができるようになった。この頃の母親はまだ子どもの変化を実感していなかった。服用後2ヶ月では表出面、理解面ともに単語から2語文レベルでのやり取りが可能となり、母親も子どもの成長に気づき、ゆとりを持って子どもを見る事ができはじめた。
【考察】
服薬に関しては結果的に怠薬で薬剤効果は低かったが薬剤投与をきっかけに小児科医の定期的な療育指導の中で、母親は子どもの行動の意味が理解できるようになり、子どもに対して受容的になった。その事が子どもにとっても心地よく、さらに家族とのコミュニケーションを促進し、相手に対する期待を生んだのではないかと考える。一方では作業療法で感覚統合アプローチに取り組み皮質下が活性化し、皮質レベルでの抑制(前頭葉)と活性化が促され行動にまとまりが出たのではないかと考える。上記の2つによって子どもが人へ注目し表情を読みとる事が出来る状態に変化し、母親は子どもの成長を感じ受容的な関わりが増え、結果として子どもが安心して活動できたのではないかと考える。
【まとめ】
1.PDDに対する療育では環境整備としての家族指導が大切である。2.家族(母親)のニーズを受け入れ、子どもの動きを客観的に説明する機会をもつと改めて子どもの特性を理解できる。3.子どもは母親の対応の方法で大きく成長し、家族と子どもの信頼関係ができると相乗効果が高い。