抄録
【目的】
当クリニックでは現在、前十字靱帯再建術に対して、解剖学的2重束再建(以下A-2R)を基本とし、再断裂の頻度が多い10代男性やスポーツ特性として膝深屈曲位を頻繁に必要とする競技では骨付膝蓋腱による再建術(以下BTB)を行っている。今回、これらの術式と、開院当初施行していたシングルルート(以下S)による再建術も合わせて、関節可動域、筋力、安定性などの短期成績について比較検討する。
【対象と方法】
対象はH18年3月~H21年7月までにACL再建を行った症例75例(平均年齢18.8才、男性47例、女性28例)とした。術式は、A-2R 21例(男性12例、女性9例)、S 41例(男性24例、女性17例)、BTB 12例(男性10例、女性2例)であった。各指標の評価は術後平均8か月の時点で、(1)関節可動域:屈曲はHeel Hip:以下HH、伸展はHeel Height Difference:以下HHDを横指:fbで評価し、(2)安定性:Knee lax3(index社)にて132Nでの前方引き出し距離(以下AD)の健患差、(3)筋力評価:等尺性測定にて膝伸展・屈曲筋力の健患比、WBIを評価して比較検討した。
【結果】
年齢、術前の屈曲・伸展可動域、測定時期について各群間で有意差はなかった。術後屈曲可動域はA-2R(0.03±0.12fb)<BTB(0.59±1.80fb)<S(0.68±1.55fb)で、有意差はなかったが、術後伸展可動域はA-2R(0.48±0.91fb)<S(0.65±0.79fb)<BTB(1.32±1.12fb)で、A-2R-BTB間に有意差を認めた。靱帯の安定度の指標の一つであるAD(健患差)はBTB(1.02±1.11mm)<A-2R(2.07±1.38mm)<S(2.35±1.45mm)で、BTB-S間に有意差を認めた。膝伸展筋力(健患比)はS(94.3±13.9%)>A-2R(83.0±12.1%)>BTB(82.5±9.7%)で、S-BTB間に有意差を認めたが、膝屈曲筋力(健患比)では、BTB(92.6±6.7%)>A-2R(86.8±12.8%)>S(86.3±15.6%)で有意差はなかった。WBIは群間に有意差はなかった。
【考察】
可動域は屈曲が全ての術式で良好な結果(HH:1fb以下)であったが、伸展はA-2R、S( HHD:1fb以下)が良好でBTBでは有意に不良例が多かった。これは、過去の報告からも指摘されるようにグラフト採取場所に関連する膝前方の癒着が原因と考えられた。靱帯の安定性(ADの健患差)はBTB、A-2R両群(2mm以下)で良好と考えた。スポーツ復帰に筋力の回復は重要となるが、伸展筋力では、全術式で80%以上の回復はあるものの、有意にSが良好であった。今後、術式による早期成績の比較も踏まえて、検討したい。