九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 273
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変形性膝関節症による長年の姿勢不良と、小脳出血による失調症状を併せ持った症例
~体幹に着目した効果的な訓練方法の一考察~
*茅野 仁美石丸 知二三浦 剛古本 雅博安達 美紗
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抄録

【はじめに】
失調症状は軽度であるのに、立位を伴うADL動作が不安定な症例を経験した。姿勢の分析や触診を行った結果、左側体幹筋、左上下肢筋の廃用性萎縮があることがわかった。そこで、体幹筋へのアプローチを中心に実施したところ、ADL動作の拡大につながったため、若干の考察を加え報告する。
【症例紹介】
80歳代女性。20年ほど前から徐々に左膝の変形性膝関節症が進行する。それにともない立位時に体幹を左側屈する不良姿位が生じていた。しかし、杖歩行は可能でADLも自立していた。H22年1月、小脳出血を発症。左上下肢・体幹に失調症状が出現する。同年2月、当院回復期病棟にリハ目的に入院。失調症状は徐々に軽減し、座位・起居動作は自立となるが、移乗・排泄など、立位を伴う動作は不安定であり介助が必要である。本人家族ともに自宅復帰を強く望まれている。
【作業療法評価】
失調症状は、左上下肢体幹に軽度残存。臥位では姿勢の左右差はわずか。座位・立位姿勢をとると、体幹を左側屈、骨盤を左側へ変位させ、バランスを保とうとする。姿勢保持、動作時に筋の触診を行った結果、左側の脊柱起立筋の収縮が弱くかった。また視診からも、脊柱起立筋の左右差が確認でき、廃用性萎縮があることがわかった。
【方法と経過】
上肢を挙上する動作、体幹の回旋動作の際に、左側の脊柱起立筋の収縮をうまく促すことができた。この動作の中で、筋力強化を目的にボールや錘を用い、重さや大きさを調整することで段階付けを行い、持久力向上を目的に少数頻回の運動を行った。結果、1ヶ月後、起立・移乗動作・立位時の安定性が向上し、自宅復帰の必須条件の一つである排泄動作が見守りで可能となった。
【考察・まとめ】
体幹は、頸部・上肢の荷重保持に加え、体重の運搬や大きな可動性が必要とされる。それらをスムーズに行うためには、体幹の十分な筋力・持久力は必要不可欠である。症例は体幹の筋収縮に左右差が生じ、姿勢不良や立位保持の不安定さにつながっていた。それらを改善するための手段として、体幹の筋の収縮を触診しながら運動を選択し提供したことが、体幹の安定性確保につながり、ADL改善に効果的であったと考えられる。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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