九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 308
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卓球バレーを通しての操作性向上
~GMFCSレベル5の児童の5年間を追って~
*野田 智美藤井 満由美久保田 珠美武田 真樹福屋 まゆ美廣瀬 賢明武智 あかね那須 賢一
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抄録

【はじめに】
 今回GMFCSレベル5の児童に関して、障害者スポーツの1つである卓球バレーにおける姿勢・環境を検討し、ラケット操作・日常生活動作(以下ADL)の5年間の経過を報告する。尚、今回の報告は両親に説明と同意を得ている。
【症例紹介】
 低酸素性虚血性脳症による混合型四肢麻痺。養護学校6年男児。1歳時より当センターに入所し、6歳よりスポーツ活動に参加。当時、食事はほぼ全介助、電動車椅子は駆動できるが停止・方向転換不可。現在、右上肢のみ不随意運動を伴いながらの操作が可能。ADLは食事以外全介助、食事は特殊スプーンと皿を設置すれば自立。寝返り可・坐位不可・電動車椅子での移動可。
【卓球バレーにおける姿勢・環境調節及びラケット操作】
1年生:ラケットの持続的把持、動くボールへの対応が困難。よって、車椅子は得意な水平外転の動きで打てるよう後向きとした。車椅子上に割り座をとらせ左前腕をアームレストに固定することで、下部体幹の安定性向上・右上肢の分離運動を促した。ラケットをベルトで固定しようとするが、上肢の活動に伴う手指伸展が強かったため、児の手の上からセラピストが把持を手伝う必要があった。
2年生:車椅子にKnee blockを取り付け、左上肢はグリップ付き前腕固定板とともにアームレストに固定することで、より強固に安定させた。結果、ラケット操作時の手指伸展の不随意運動が減少し、ラケットをベルトで固定できるようになった。しかし上肢操作に股関節・体幹の強い伸展が伴い、連続でボールがくるとスムーズな動きができなかった。
4年生:すばやくラケットを振っても持続的把持が可能。また車椅子のテーブル上に箱を置き、右前腕を卓球台と同じ高さとした結果、台に沿わせて打ち返すという運動方向のイメージが明確になり、ラケットが卓球台から浮かなくなった。さらに左肩を上方からのベルトで圧迫したことでサーブの正確性が向上した。
5年生:スピードのあるボールを打ち返すことができ、サーブにもスピードをつけられるようになった。左上肢は肘伸展位で座面などを支持し、自分で安定を図れるようになった。
【考察】
 以上のように右上肢以外を安定させるなどの姿勢・環境へのアプローチを行った結果、分離した運動イメージを獲得でき、身体の選択的な使用が可能になった。また年々上手に打ち返せるようになった自信・楽しみが本児のモチベーションを向上させ、ボールを注視しタイミングを合わせて打ち返すなどの目と手・上肢の協調的な動きを積極的に行う結果となり、その積み重ねが食事や電動車椅子の操作などADLの向上に繋がったと考える。加えて、チームスポーツであることから、他児に認められるなどの成功体験も重ねることができた。今後も本児の自信や楽しみを引き出せるような理学療法を提供し、将来に繋げていきたいと考える。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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