九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 336
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消去現象を呈さない半側空間無視の1症例
*北里 堅二佐藤 なな絵
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抄録

【目的】
半側空間無視は脳卒中の重要な合併症の一つであり、重大なリハビリテーション阻害因子であるといわれている。その発生機序にはいくつかの説があり、責任病巣もいくつかの場所が挙げられている。また、消去現象は半側空間無視の軽症化したものとの捉えられている場合が多く、二つの症状は同じ病態の病期による重篤さの違いを観察していると考えられている場合が多いようである。しかし、机上のテストでは明らかに半側空間無視の症状を呈するにもかかわらず、消去現象を認めない症例を経験したので報告する。
【症例】
70歳代、男性。平成19年4月に左頭頂葉脳出血で右不全麻痺、9月に左前頭葉脳出血、引き続き右頭頂葉終結により左片麻痺を発症した。左片麻痺発症時より左半側空間無視の症状を呈していた。現在も左半身の麻痺と半側空間無視は残存している。視力、視覚には問題はない。
【方法】
十分な説明と同意の下に以下の検査を実施した。消去現象については1mほど離れて対座し、検者が腕を片方または両方同時に挙上した際、挙げた手の自分から見た方向を答えさせた。半側空間無視に関してはBITの線分二等分試験、線分抹消試験、絵画模写試験、かな拾い試験を実施した。また、パソコン上に20.5cmの線分を提示し、自身が右手でマウスを操作した場合と、口頭指示に従い検者がマウスを操作した場合の線分二等分試験を2回ずつ行い比較した。
【結果】
検査の結果、消去現象は認められなかった。半側空間無視の机上の4試験では、いずれも明らかな左半側空間無視が認められた。パソコン上の線分二等分試験では、中点認知点の平均は、マウス操作の場合線分の右端から9.2cm、口頭指示の場合は同じく11.4cmであり、右手でマウスを操作した場合よりも口頭指示で行った場合の方が右への偏倚が軽減する傾向(実際は中点を越えて左に若干偏倚してしまった)が見られた。
【考察】
症例は重度の半側空間無視を呈するにも関わらず、消去現象を呈していない。一般的には半側空間無視の症状が軽症化することで消去現象を呈すると考えらえているようであるが、本症例はその説に反する興味深い症状を呈している。また、パソコンを使用した線分二等分試験の結果からは、右手の使用が半側空間無視の症状を増幅させる場合がある可能性も示唆された。半側空間無視症状の出現に左右大脳半球間抑制のバランス等が関与していることもこのような現象の要因として推測されうる。本症例が左右の大脳半球に脳血管障害の既往があることがこのような特異的な症候を示す一因となったとも考えられる。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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