抄録
【はじめに】
肘外側側副靭帯(以下LCL)の機能的意味づけについては多くの議論があるが、主に筋膜も含めた全靭帯組織が肘の安定性について重要であると考えられている。今回、上腕骨開放性脱臼骨折・LCL断裂を呈し靭帯再建術・植皮術を行った症例を経験したため、実践した術後のセラピィと経過について考察を加えて報告する。尚、報告に際し症例には同意を得ている。
【症例紹介】
59歳、男性、右利き。職業は調理師。バイク走行中にトラックに衝突し右上腕部受傷。受傷部位は右上腕骨内側上顆骨折、橈骨頭・肘頭は内側亜脱臼。右LCLの全断裂。腫脹強く、受傷後4週目で靭帯再建術施行。6週目植皮術施行。
【術中所見】
術中肘関節屈曲は120°前腕回内外にて容易に橈骨頭の脱臼を認めた。長掌筋腱を橈骨頚に埋込み、上腕鈎突窩上方に骨孔を作成し背面から肘頭の骨孔にて縫合。縫合時の緊張は前腕中間位で肘関節屈曲90°シーネ固定とした。
【術後セラピィ】
術後翌日より肩・手及び手指の可動域訓練、浮腫コントロール開始。術後4週目より前腕筋力強化訓練と装具装着下にて肘関節屈曲・伸展動作のみ可動域訓練を開始。開始時肘関節屈曲65°伸展-10°。また、皮膚伸張性低下、三頭筋付着部の癒着が認められた。6週目にて前腕の可動域訓練開始。9週目より前腕不安定性出現、前腕屈筋・伸筋の筋群に過剰努力による疼痛が認められた。11週目にて肘使用時の過剰努力と手・肩関節の代償運動認められ、肘内側への疼痛増強。筋力増強運動を中止し分離運動訓練・ADL訓練開始。3カ月での可動域は右肘関節屈曲120°伸展0°回外90°回内55°左内反20°日本整形外科学会肘機能評価法(以下JOAスコア)47点、QuickDASHスコア65点だった。
【考察】
加藤らによると、術後不安定感の残存した1例は内側側副靭帯(以下MCL)の機能不全があったがLCLの再建のみを行った場合では、日常生活範囲での脱臼不安感は無かったと述べている。本症例も内側不安定性が強いことからMCL損傷が疑われ、ゴールを日常生活範囲内での上肢使用とした。しかし、3ヶ月経過時点でJOAスコア47点、QuickDASHスコア65点。ADLでは箸操作等が可能になったが、安静時の前腕不安定性強く装具装着下での動作となっている。また、動作時の肘痛も強い。これは肘不安定性によって前腕屈筋群の過剰努力が発生していたこと、努力的に肘運動を行う事で肘関節動作に伴った肩甲帯挙上等の代償運動が習慣化していたことが考えられた。現在は肩の代償を抑える様に再教育訓練を行い、動作時に上肢を楽に動かすように指導している。今後の方向と課題としては肘屈曲可動域の改善を進めるとともに動作時の不安定感を改善するようにセラピィを進めていき、その経過も含め報告したい。