九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 94
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個人作業療法における一考察
~初老期鬱病患者との関わりを通して~
*矢野 亜美
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抄録
【始めに】
今回初老期鬱病を呈する症例に個人作業療法(以下個人OT)を実施する機会を得た。意欲に乏しく、疲労感の訴えの多い症例であったが、個人OTを継続する中で、前向きな言動などの変化が見られるようになった。今回経過を振り返り、症例の変化の要因について考察を加え報告する。
【症例紹介】
60代女性。X-6年妄想性障害と診断され、入退院を繰り返す。X-2年4回目の入院。診断名初老期鬱病。抑うつ状態で、臥床傾向強く、病棟でのOT活動への参加はほとんどない。X年個人OT開始。
【個人OT経過】
開始当初は、義務的で表情硬い。OTRの声かけに返事をするのみである。症例の好きな音楽鑑賞を行なうが、選曲はOTRに任せがちである。疲労の訴えが多く、帰棟要求や休みの希望もあり、その都度個人OTの目的を説明する状況であった。2ヵ月後より、A氏から話す機会も増え、話題の幅が広がる。選曲も自分で行い、活動終了時には、「ここで音楽を聴くのを楽しみにしているんですよ。」と表情良く話すようになる。この頃、病棟での活動性も上がったため、本人・スタッフ・家族とカンファレンスを行い、さらに活動性の向上を目的に、病棟のADL目標を設定した。個人OTでは『がんばらなくていい、一息つける時間』を保証し、継続した。半年後、自ら活動への要望を言うようになる。個人OTの振り返りでは、「楽しみ」「継続することで自信がつく」「OTRと話せる」など非常に満足度の高い結果であった。
【考察】
個人OTの治療構造を経過を踏まえて考察した。
1.本人の興味があり、受動的で失敗も無い作業内容
2.病棟外で人の出入りも少ない環境設定
3.作業を介して寄りそう、傾聴・支持的なOTRの関わり
これらの要因により、症例にとって、『今のありのままを受け入れられる』場になったと考える。このような体験を繰り返すことで、病棟では聞かれないような愚痴や前向きな発言が聞かれ、思いを語る場となった。継続することで、自信につながり、「1週間の楽しみ」と個人OTを捉え、積極的な利用につながったと考える。また、カンファレンスを通じ目標に向って、それぞれの職種で役割分担をしながら、関わりを持つ事ができた。症例にとって、ADL目標は『努力の要るもの』として、捉えられていたが、『病棟でがんばっている分、個人OTはがんばらなくていい時間』と保証したことで、積極的な休息がとれ、気分転換を図ることができたと考える。その結果、活動と休息のバランスが上手く提供でき、病棟内でのADLの改善にも効果的であった。
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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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