九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 101
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超音波検査機器のカラードプラ法を利用した寒冷療法の効果判定の試み
効果的な寒冷療法を提供する為に
*井上 彰大川 尊規木村 淳志
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抄録

【はじめに】
寒冷療法は炎症に対する治療の一手段であるが,臨床ではその効果を判定することは難しい.寒冷療法の目的は炎症緩和や局所の疼痛軽減などがあり,様々な生理学的作用が報告されている.しかし,皮膚・皮下脂肪の厚さや血行状態により効果が異なる為,生理学的変化には個人差があるとされている為,目標となる皮膚温度や冷却時間の設定は容易ではない.また,実際に冷却刺激が炎症を起こしている部位に届いているのかどうかは疑問であり,寒冷療法の効果を直接的に評価する事は困難である.これらの事より,漫然的に寒冷療法を施行し患者への負担が増大してしまう事を臨床上経験する.
そこで今回,炎症の範囲や程度,寒冷療法後の影響を超音波検査機器のカラードプラ法を利用して視覚的に提示し,効果的な寒冷療法を提示できるように考察を踏まえ報告する.
【症例】
男性2名,女性3名の5症例で,平均年齢61.8±25.3歳.疾患内訳は症例1)右三角靭帯損傷(保存),2)右脛骨近位部骨折(保存),3)左大腿骨顆上骨折術後,4)右変形性膝関節症,5)左変形性膝関節症であった.尚,全症例において本研究の目的を説明し,了承を得た上で実施した.
【使用機器】
超音波検査機器TOSHIBA-Xario -SSA-660A(2005).使用プローブは7.5MHzリニア型プローブを使用した.患部皮膚温測定は,市販されている皮膚温度測定器を使用した.
【方法】
疼痛及び熱感の強い部位の皮膚温を皮膚温度測定器にて3回測定し,その平均温度を算出した.次に,プローブを患部へ長軸に当て,血流シグナルを観察した.その後,市販の氷嚢に氷を入れ,20分間冷却し,同様の方法で皮膚温と血流シグナルを観察した.
【結果】
5症例の健側と患側の皮膚温度差の平均は1.9±2.1°であった.寒冷療法前後の差の平均は13.2±2.1°であった.寒冷療法前のカラードプラによる患部の観察では,全例において,健側では見られなかった豊富な血流が存在していたが,寒冷療法後は完全ではないが全例において血流の鎮静化を視覚的に確認できた.
【考察及びまとめ】
Brandは患部の皮膚温が周辺組織より1°以上高ければ炎症に注意し,6°以上であれば炎症が存在すると報告している.今回の結果では健側との差が1°未満の症例が5例中3例存在していたにもかかわらず,全例患部に血流シグナルが存在した.皆川は,血流シグナルについて炎症組織や組織の修復過程に血流が多く出現し,超音波検査(カラードプラ法)ではこれらの血流情報を客観的に捉える事が出来ると述べている.今回の寒冷療法前の豊富な血流は,骨折部や損傷組織における修復過程のものである事が示唆される.また,寒冷療法によってそれらの血流が鎮静化したという結果は,様々な文献で報告されている一時的血管収縮,血液粘度の上昇などの寒冷療法の作用を画像的に捉え,寒冷療法の効果の判定方法として使用できるのではないかと考える.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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