九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 184
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歩行の安定化に向けた訓練の工夫
-結果の知識をどのように与えるか-
*小鶴 誠
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抄録

【はじめに】
セラピストは日常の訓練において患者に「結果の知識(Knowledge of results:以下,KR)」を与えている.KRについては様々な視点があるものの,運動に内在される多種感覚モダリティおよびその知覚経験について,KRをその基点として,詳細な言語記述を求め小脳機能の賦活化を計った報告は少ない.今回,小脳出血の症例を通してKRの付与について工夫し良好な結果を得た.以下,報告する.
【症例紹介】
60歳代,女性.病名:左小脳出血.病歴: A病院にて小脳血腫除去術後,リハビリテーション開始.約一ヶ月後,当院転院となる.転院時の評価は,ロンベルグ徴候(-)片脚立位不可,歩行は歩行器使用にて可能であったがややwide base気味であった.直進では目立たないものの方向転換において酩酊歩行様となり側方への動揺が著明であった.継ぎ足歩行にて股関節由来の動揺が観察された.
【訓練方略】
方向転換時に動揺が顕著になったことに着目した.このことは,遊脚側股関節の失調症状はもとより,立脚側の問題もあると考えた.つまり,遊脚側股関節での方向付けができないだけでなく,立脚バランスの崩れも存在すると考えた.歩行時の安定性とは,意識する・しないに関わらず,移動によって生じる体性感覚情報と視覚情報との整合性を保つことである.さらに小脳障害の場合,運動を視覚で補正し,体性感覚情報には注意は向きにくい.したがって,KRには様々な感覚モダリティを患者が予測し,意識化できているのかを付与した.
【訓練】
運動の結果に対して症例が注意を向けやすく,かつ立脚・遊脚双方からモダリティを得られる状況として,平行棒内立位を開始肢位とし,振り出しを行った.具体的には裸足で立位から振り出しにおいて,あらかじめセラピストによって指示された着地位置を視覚的に確認後,着地位置をイメージし,閉眼にて試行する.この時,着地位置を体性感覚情報で判断しやすいようにおはじき(直径1cm)をテープで固定した.症例は予測される感覚モダリティを口述後,振り出しを行う. おはじきの位置は数回の施行毎に変え,新たな予測を立てさせた.一回の施行毎にセラピストは様々な感覚モダリティを症例と共に確認した.
【結果】
約2週の訓練でほぼ症例のイメージ通りに振り出しが可能となり,KRとの整合性も獲れてきた.それと共に方向転換における動揺が消失し,その後約2週で院内歩行自立となった.
【考察】
従来,小脳は運動を円滑に行うための器官として認知されてきた.しかし,小脳が運動学習に関与し,比較照合器官の側面を持ち,さらに認知的制御や予測的制御にも関わることが報告されてきた.本症例において歩行の改善を認めたことは,体性感覚情報を顕在化させ,KRにより予測的制御の意味の付与ができたためと考えた.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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