抄録
痙攣性発声障害に対する音声治療について、十分にエビデンスとなりうる医学的情報源をMEDLINEやCochrane Libraryで検索してみても、ヒットするような文献は皆無に等しい。そこで、現在までに検索できる範囲内で、国内外の症例研究や音声治療に関する教科書などを検討してみると以下の3点が共通項として要約できる。
(1) 心因性や過緊張性発声障害との鑑別に喉頭の指圧法が有効なことがある。
(2) 痙攣性発声障害の軽度例には、音声治療が有効である。また、病悩期間が短い症例ほど効果は高い。ただし、音声振戦や喉頭以外のジストニアを合併する症例では音声治療の効果は低い。
(3) ボツリヌストキシン注射例については音声治療を併用することで通常よりも注射の効果が持続する。
実際には、上述の (1) ~ (3) に基づいて音声治療の適応となる症例を選択し、週1回程度の音声治療を行う。
具体的な音声治療の方法としては、喉頭の過緊張を緩和する伝統的なため息法、気息性発声法、声の配置法、吸気発声法、呼吸法などを用いる。しかし、どの手技がよいかは症例に応じて選択しなければならない。そのため、初診時にファイバースコープで喉頭を観察しながら、いずれかの手技に反応がよいか、「試験的音声治療」を実施し確認する必要がある。また、心因性や過緊張性発声障害が疑われる症例は、喉頭の指圧法を用いて鑑別を試みる。
本報告では、喉頭の指圧法を含めたいくつかの伝統的な痙攣性発声障害の音声治療手技を実際に供覧し、それぞれの手技の留意点とコツを述べる。