Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
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Marketing Research Projects
Ichiro Furukawa
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2019 Volume 39 Issue 1 Pages 3-5

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Abstract
Translated Abstract

The purpose of this special issue is to introduce several research results from JMAC marketing research projects. This issue contains five papers among 31 research projects (shown in Figure 1): “Industry Innovation and Brand-Mode Shift”, “Presence and Prospects of CMOs in Japanese Corporations: How Do CMOs Contribute to Performance?”, “Exploratory Study of Factors Determining Outcomes of Sixth Sector Industrialization Using Secondary Data”, “Current Issues in Brand Research” and “Relationship between Consumer’s Hedonic and Utilitarian Motives for Making and the Value of User-Developed Solutions and Sharing of Solutions: A Large-Scale Empirical Study”.

All of these papers show the frontiers of each research area in marketing practice in Japan.

マーケティング・リサーチプロジェクト(以下,リサーチプロジェクト)は日本マーケティング学会の支柱の一つであり,2012年度に4つのプロジェクトでスタートしたものが,2018年度には27に,そして今年度は31のプロジェクトに増え,それぞれ活発な活動を行っている。

大学を中心とした研究教育機関には,これまで培われきた過去の知識をしっかりと受け止め,望むべくは研究活動を続ける中から新たな知見を付け加え,次世代につないでいくという責務がある。もちろん,次世代の人材育成に責任を持つことは当然であるが,研究は大学の欠くべからざる存在理由である。そのような研究活動を支える場として学会は存在し,マーケティング研究を一歩推し進めるための具体的な取り組みの一つがリサーチプロジェクトなのである。

ここで,「探求と創発」を掲げる日本マーケティング学会にあって,リサーチプロジェクトの目指すところを改めて確認しておきたい1)

① 多様な研究テーマを会員から募ることで,会員ニーズに沿った研究を行うとともに,本学会の研究領域の拡大を図る。

② 研究成果を広く学会員に公開することで,その質的向上を図るとともに,同じテーマに関心を有する会員間の相互交流を促進する。

③ 学会の研究部会として位置づけることで,研究のモチベーションを高めるとともに,外部資金獲得等の一助とする。

現在のマーケティング環境を取り巻く環境変化は実にエキサイティングであり,研究対象としては極めて興味深いと思うが,社会科学においては理論ではなく常に現実が先行する。したがって,マーケティングの研究にはマーケティングのプラクティカルな側面を不断に取り込む必要がある。日本マーケティング学会は,3分の2が実務家,3分の1が学者であり,まさにこの要求にかなっている。また,リサーチプロジェクトもリーダーは学者でなくてはならないが,プロジェクトメンバーには実務家を含まなければならないという決まりがある。多様な研究テーマを掘り起こし,実務家と研究者が交流し探求を通じて知の共創を図るための装置がリサーチプロジェクトなのである。

そして,2017年度から実験的に始まったリサーチプロジェクトの合同研究発表会であるリサプロ祭りも,今年の3月に青山学院大学で第3回目を迎えることが出来た2)。学会員の参加者も400名を超え,朝から夕方まで大変な賑わいであった。14のリサーチプロジェクトがそれぞれのテーマに沿って発表を行ったが,ビジネスパーソンと研究者の双方がテーマについて発表を行い,それに基づいて参加者との活発な討論が行われていた。今年度は,これまでで最多の31のプロジェクトが活動を展開している(表1参照)が,研究テーマが広がることでこれまで見過ごされてきた興味深いテーマが掘り起こされてくるのを感じる。それぞれのプロジェクトは少なくとも年に1回公開で研究会を行うので,学会員の方には学会のホームページなどを参考にして関心のあるプロジェクトをぜひ覗いて見られたい。

表1

2019年度リサーチプロジェクト一覧

(*)は本特集号に投稿した研究会   出典:日本マーケティング学会

もちろん,課題も大きい。それは,過去の理論的蓄積を踏まえたうえで「いまここ」の現象の背後に隠された本質的な問題を抽象化し,新しい理論へ昇華するには多くの人たちの努力が求められるからである。日本人にもなじみのある温故知新という言葉は,本来このことを意味しているように思う。しかし,論語のオリジナルは温故而知新であり,而という文字が含まれている。而は音読しないので一般に忘れられがちであるが,知新には而が必要なのである。少し意訳すると,優れた理論は突然生まれるように見えて,実はそれに必要な助走に時間がかかっているということである。そう簡単に素晴らしい知新は起きないのではないか。発酵をイメージしてもらっても良いのかもしれない。科学的なプロセスは同じでも,人間にとって良いものは発酵といわれ,悪いものは腐敗といわれる。素材が同じであっても良いお酒になるかどうかは,上手に発酵するかどうかにかかっている。そして発酵は極めて複雑な化学反応であり,多くの手間と時間がかかるのである。学会はそのために必要な器と考えても良いのかもしれない。

本号の特集には,表1の5つのリサーチプロジェクトから,それぞれの研究テーマにおける課題を明らかにして,新しい現象の解明にチャレンジしている極めてプロボカティブな研究論文が投稿された。共通しているのは,単に現状の最適化を意図しているのではなく,どの論文も未来への提言を強く意識している点である。これは,投稿のあった5つの研究会のうち3つの研究会の名称に“イノベーション”という言葉が含まれていることからも察することができる。このような研究報告を起点に活発な議論が起こり,それを通じて未来を語るための優れた理論が生まれることを期待したい。

1)  日本マーケティング学会のサイトにあるマーケティング・リサーチプロジェクト運営規定参照されたい。http://www.j-mac.or.jp/regulation/researchproject/

2)  日本マーケティング学会リサーチプロジェクト合同研究会(春のリサプロ祭り)http://www.j-mac.or.jp/rp_fes/

 
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